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最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)63号 判決

長崎県諫早市天満町一三番三三号

上告人

進栄株式会社

右代表者代表取締役

古賀康夫

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

同弁理士

林宏

内山正雄

三重県四日市市末広町二番九号

被上告人

株式会社前田鉄工所

右代表者代表取締役

前田尚久

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第二一二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成四年一一月一二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水田耕一、同林宏、同内山正雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

(平成五年(行ツ)第六三号 上告人 進栄株式会社)

上告代理人水田耕一、同林宏、同内山正雄の上告理由

原判決には、以下に述べるとおり、民事訴訟法第三九五条第一項第六号所定の理由不備ないし理由齟齬の違法があるので破毀を免れない。

一、本件第一発明と引用例記載のものとの技術的課題の異同について

1.原判決は、「本件第一発明の技術的課題は、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量をアキュムレータにより負荷変動を吸収させながら自動的に負荷の平均値に近似した値に設定し得るようにすることにあるが、引用例記載のものの技術的課題も、アキュムレータを有効に利用することによりボイラ運転の安定を計り熱効率を向上せしめたことにあり、ボイラを安定的に運転可能にするという技術的課題において共通していることが明らかである。」(二六頁末行~二七頁八行)と認定している。

しかしながら、本件第一発明の技術的課題は、原判決が認定するとおり、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を制御して、それを自動的に負荷(この場合は、「低圧蒸気系の負荷」すなわち「低圧負荷」を意味する。)の平均値に近似した値に設定し得るようにすることにあるのに対して、引用例においては、負荷の平均値になるようにボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を制御しようとする技術的課題はみられない。

そのことは、甲第四号証のどこにも、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を低圧負荷の変動に追従させて制御し、その流量を低圧負荷の平均値に近似した値にしようとすることに関する何らの記載がないこと、また引用例記載のものの技術的課題として原判決の認定するところが、前記のとおり「アキュムレータを有効に利用することによりボイラ運転の安定を計り熱効率を向上せしめる」というにとどまり、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を制御して、それを自動的に低圧負荷の平均値に近似した値に設定しうるようにするという要素を含んでいないことに照らして明らかである。

されば、原判決が、本件第一発明と引用例記載のものとが「ボイラを安定的に運転可能にするという技術的課題において共通している」と認定したのは、本件第一発明の技術的課題とは異なるものについて、引用例記載のものとの共通性を認定したものであって、本件第一発明と引用例記載のものとの技術的課題の異同の認定としては当を得ないものといわなければならないのである。

2.原判決は、引用例記載のものにつき、「甲第四号証を精査しても、引用例記載のものが本件第一発明が吸収対象とする低圧蒸気系の負荷変動を吸収対象から除外しているとは認められず、かえって、アキュムレータ9の内圧が限界値内にある限りアキユムレータ9自体が低圧負荷変動を吸収する機能を有することは、技術上自明である」(二七頁下から五行~二八頁一行。傍線は上告人代理人が付した。以下引用文について同じ。)とし、「引用例記載のもののアキュムレータ9は、その配管11に接続された低圧の負荷の変動をも含め、内圧が限界値を超えたときに調節弁8を動作させることによりアキュムレータ9内の内圧が限界値内に戻るよう操作させるものであるから、低圧負荷の変動をも吸収させることを目的として設けられているものであることを認定することができる。」(二八頁二行~八行)と認定して、「そうすると、引用例記載のものと本件第一発明とが技術的課題を共通すると認めるのに何らの妨げもないというべきである。」(二八頁九行~一一行)との判断を示している。

しかしながら、引用例記載のものに関する原判決の右の認定によってみても、そこでは、引用例記載のものにおいて、アキュムレータが、アキュムレータにより低圧負荷の変動をも吸収させることを目的として設けられていることが認定されているにすぎない。原判決が認定している本件第一発明の「ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を自動的に負荷(注―低圧負荷)の平均値に近似した値に設定しうるようにする」という技術的課題が、引用例記載のものに含まれていることについては、原判決において何らの認定もなされていないのである。

原判決の前記判示からすると、原判決は、アキュムレータに低圧負荷の変動を吸収させれば、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を自動的に低圧負荷の平均値に近似した値に設定しうるものと考えたのかもしれない。

しかしながら、ボイラ装置において、アキュムレータに低圧負荷の変動を吸収させる技術は、本件発明の特許出願前すでに公知であった。すなわち、甲第二号証において、「最近のボイラ設備においては、汽醸(蒸)時間の短縮や性能の向上化、さらにはパッケージ方式の採用等により極めて保有水量の少ないボイラが使用されるようになり、そのため負荷変動に対する追従性能が著しく低下し、ボイラを一定条件の下で連続運転することが困難になっている。」(甲第二号証第2欄五行~一〇行)とし、「そこで、負荷変動に対処するため、スチームアキュムレータをボイラと併用し、該アキュムレータに負荷変動を吸収させることによりボイラを一定条件下で定常運転する方法が採用されている。」(同号証第2欄一一行~一四行)と記載され、その具体的な例としては、第1図が示され、それについて同号証一五行ないし二五行に説明が加えられているとおりである。

右の第1図についての説明から明らかなように、従来公知の方法は、次の如きものであった。

「ボイラとユーザーとの間にアキュムレータを接続し、ボイラで発生した蒸気を圧力設定用の一次圧力弁を介してアキュムレータ内に吹込むことにより飽和熱水として蓄積し、ユーザーに対しては、その蒸気が使用量とともに変動する二次側圧力に応じて二次圧力弁を自動開閉させることによりアキュムレータの内部で自己蒸発を生じさせ、ここで発生した蒸気を供給するもので、アキュムレータによって負荷変動を吸収させつつボイラの蒸発量を一定に保持しようとするものである。」(甲第二号証第2欄一五行~二五行)。

すなわち、右の公知技術においては、アキュムレータに低圧負荷の変動を吸収させながらボイラの蒸発量を一定に保持しようとする技術思想がすでにみられたのであって、本件第一発明は、かかる従来公知の技術の欠陥を改善することを目的としてなされたものである(甲第二号証第2欄二六行~第3欄二七行)から、本件第一発明の技術的課題が、アキュムレータをして低圧負荷の変動を吸収させるにとどまるものでないことは明らかである。

されば、本件第一発明と引用例とにおいて、アキュムレータが、ともにアキュムレータにより低圧負荷の変動を吸収させることを目的として設けられていることを根拠として、両者が「技術的課題を共通する」としている前記原判決の認定は、さきにみた技術的課題の異同に関する認定と同様に、本件第一発明の主たる技術的課題とは異なるものについて、引用例記載のものとの共通性を認定したものであって、本件第一発明と引用例記載のものとの技術的課題の異同の認定としては当を得ないものといわなければならないのである。

3.前記の従来公知の技術においては、

「一次圧力弁により一次側(ボイラの出口側)の圧力を一定に保つようにしているため、あらゆる流量に対してその圧力を一定に保持させることは可能であっても、流量が一定になるとは限らず、そのため所期の目的であるボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を一定に保持することができない。」(甲第二号証第2欄二六行~第3欄三行)

「そこで、蒸気の流量を一定に保持するための別の手段として、第2図に示すように、一次側管路に流量弁を設け、この流量弁を流量検出器からの信号に基づいて流量制御装置で制御することにより直接流量をコントロールすることが考えられるが、この場合、設定流量と負荷(注―低圧負荷)との間に相関関係がないため流量を決めるのが非常に難しい。」(同号証第3欄六行~一三行)

との欠点があった。

そこで、本件第一発明では、

「ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、アキュムレータにより負荷変動を吸収させながら自動的に負荷の平均値に近似した値に設定し得るように構成した」(同号証第3欄二三行~二六行)

すなわち、

「ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、アキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御するようにし」、それによって「アキュムレータに負荷変動を吸収させながら上記流量を負荷に追従させてその大まかな平均値に自動的に設定することができる。」(同号証第6欄二四行~二九行)

ようにしたのである。

このようにみるならば、本件第一発明の技術的課題は、アキュムレータに低圧負荷の変動を吸収させるにとどまるものではなく、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量をアキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御し、もって右流量を低圧負荷の大まかな平均値に自動的に設定することができるようにすることにあったことが明らかである。

されば、原判決が、前記のとおり、引用例記載のものにつき、「アキュムレータ9は、(中略)低圧負荷の変動をも吸収させることを目的として設けられているものである」ことを根拠として、「引用例記載のものと本件第一発明とが技術的課題を共通する」と認定したのは、本件第一発明の技術的課題の把握を誤ったことによるものであることが極めて明白である。

二、本件第一発明と引用例記載のものとの機能、作用の異同について

原判決は、

「引用例記載のものにおいて、高圧ユーザーに負荷変動がなければ、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界内にあるときは当然に調節弁8の開口量は固定され、また、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界外に達すると、アキュムレータ9内の圧力が限界値内に戻るように調節弁8を操作させることが明らかであり、引用例記載のものは、高圧ユーザーに対する負荷変動を吸収する制御系を有する点で本件第一発明と異なる構成を採っているが、本件第一発明が前提とするように高圧ユーザーに負荷変動がない限り、アキュムレータ9の内圧が圧力限界外にあるときは、本件第1発明と同様の機能、作用を営むものと判断されるというべきである。」(三〇頁末行~三一頁一一行)。

と認定している。

1.しかしながら、甲第四号証には、次の記載がみられる。

「もしアキュムレータ9内の圧力が上限又は下限の限界圧力に達すると、限界圧力発信器19が動作し、リレー回路23を介して圧力調節器18に上限圧力設定器20又は下限圧力設定器21のいずれかを接続して圧力調節器18を上限又は下限圧力調節器として動作せしめ又リレー回路22を介して電動設定器14を駆動し、アキュムレータ9の圧力が限界値内に戻るよう調節弁8を操作せしめる。」(甲第四号証一頁右欄二四行~三二行)

これによって明らかな如く、引用例記載のものにおいて、アキュムレータ9内の圧力が上限又は下限の限界圧力に達したとき(原判決のいう「圧力限界外」にあるとき)は、「アキュムレータ9の圧力が限界値内に戻るよう」制御が行われるにとどまり、ボイラ1からアキュムレータ9への蒸気の流量を制御することは行われない。

このことは、甲第四号証における次の記載に照らしても明らかである。

「本考案によれば蒸気アキュムレータ内の圧力が限界値内にある時は、ボイラ出力が定められた範囲内にあるようにボイラ側を優先して制御し、限界値に達した時には、この限界値に達した時のみ動作する圧力調節器によってアキュムレータを優先してアキュムレータ内の圧力が限界値内に戻るように制御するものである」(甲第四号証一頁右欄三六行~四二行)

2.引用例記載のものにおいて、「流量調節器13が電動設定器14加え、調節弁8を操作して蒸気溜3からアキュムレータ9へ送られる蒸気量を制御する」(甲第四号証右欄一九行~二四行)という、流量の制御(蒸気溜3からアキュムレータ9への蒸気の流量の制御)が行われるのは、アキュムレータ9内の圧力が上限及び下限の限界圧力内にあるとき(原判決のいう「圧力限界内」にあるとき)のことである(同号証一頁右欄一五行~一六行。なお、同欄一四行末尾には、句点「。」が脱落している)。

アキュムレータ9内の圧力が圧力限界外に達したときは、前記の如く、限界圧力発信器19が動作し、リレー回路23を介して圧力調節器18に上限圧力設定器20又は下限圧力設定器械21のいずれかを接続して、圧力調節器18を上限圧力調節器又は下限圧力調節器として動作せしめ、この上限圧力調節器又は下限圧力調節器として動作する圧力調節器18が、リレー回路22を介して電動設定器14を駆動し、アキュムレータ9の圧力が限界値内に戻るように調節弁8を操作せしめるのである。

すなわち、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界外に達したときに行われる調節弁8の操作は、圧力調節器18が上限圧力調節器又は下限圧力調節器として動作して電動設定器14を駆動することにより、アキュムレータ9の圧力を制御する(限界値内に戻す)ために行われるものである。したがって、そこでは、ボイラ1ないし蒸気溜3からアキュムレータ9への蒸気量を制御するということは行われない。

3.さきに本件第一発明についてみたところから明らかなように、本件第一発明は、従来公知の技術において、「一次圧力弁により一次側(ボイラの出口側)の圧力を一定に保つようにしているため、あらゆる流量に対してその圧力を一定に保持させることは可能であっても、流量が一定になるとは限らず、そのための所期の目的であるボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を一定に保持することはできない。」(甲第二号証第2欄二六行~第3欄五行)との欠点の改良を目的としてなされたものである。

しかして、引用例記載のものにおいては、「ボイラ1は圧力制御装置5、調節弁6により蒸気溜3(「9」とあるのは、「3」の誤記と認める。)の圧力が一定になるように制御されている。」(甲第四号証一頁右欄一三行~一四行)というのであるから、これは、甲第二号証が、従来公知の技術として記載している「一次圧力弁4により一次側(ボイラの出口側)の圧力を一定に保つようにしている」というのに該当する(甲第四号証の「蒸気溜3」は、ボイラの供給する蒸気を高圧系ユーザー用と低圧系ユーザー用とに分配するための分配器として設けられているものにすぎないから、甲第二号証記載の従来公知の技術と引用例との比較につき、「蒸気溜3」の存否を問題にする必要はない)。

それゆえ、引用例記載のものにあっては、たとえ高圧ユーザーに負荷変動がなくても、ボイラ1(ないし蒸気溜3)からアキュムレータへの蒸気の流量を一定にすることは不可能である。すなわち、甲第二号証に明記されているように、一次側すなわちボイラの出口側(甲第四号証の蒸気溜3)の圧力を一定に保つようにしているため、あらゆる流量に対してその圧力を一定に保持させることは可能であっても、流量が一定になるとは限らず、そのためボイラ(蒸気溜3)からアキュムレータへの蒸気の流量を一定に保持することはできないのである。

原判決は、「引用例記載のものにおいて、高圧ユーザーに負荷変動がなければ、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界内にあるときは当然に調節弁8の開口量は固定され」(三〇頁末行~三一頁三行)と述べており、調節弁8の開口量の固定によってボイラ1(蒸気溜3)からアキュムレータ9への蒸気の流量が一定になるものとの判断を示しているものの如くであるが、これは明らかに誤った判断といわなければならない。

何故なら、たとえ調節弁8の開口量が固定されていても、調節弁8を通過する蒸気の流速が異なれば流量に変動が生ずるのは自明であるからである。そしてそのような流速の変化は、調節弁8のボイラ1(蒸気溜3)側の蒸気圧力とアキュムレータ9側の蒸気圧力との圧力差が変動することによって絶えず発生する。すなわち、ボイラ1の出口側(蒸気溜3)の蒸気圧力が一定に保たれていれば、低圧負荷の変動に伴うアキュムレータ9内の蒸気圧力の変動により、調節弁8のボイラ1(蒸気溜3)側の圧力とアキュムレータ9側の圧力との差の変動が絶えず生じ、それに伴って調節弁8を通過する蒸気の流速は変化し、したがってたとえ調節弁8の開口量が固定されていても、蒸気溜3から調節弁8を通ってアキュムレータ9に流入する蒸気の流量は変動を免れないことになるのである。

4.かくみれば明らかなように、引用例記載のものにおいて、高圧ユーザーに負荷変動がなく、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界内にあるとき調節弁8の開口量が固定されているからといって、そのことにより、ボイラ1(蒸気溜3)からアキュムレータ9への蒸気流量が一定に保持されることにはならないばかりでなく、アキュムレータ9内の圧力が圧力限界外に達したときは、さきにみたように、調節弁8は、アキュムレータ9内の圧力が限界値に戻るよう操作されるだけであり、「ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、アキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御するようにし」、「上記流量を負荷(注―低圧負荷)に追従させて、その大まかな平均値に自動的に設定する」(甲第二号証第6欄二四行~二九行参照)ことは行われないのである。

これに対して、本件第一発明においては、本件特許請求の範囲第1項に記載されている如く、「(アキュムレータの)内圧が予め設定された高圧レベルより高い間は流量弁の開口量を徐々に狭めるべく絞り信号を発し、且つ内圧が別に設定された低圧レベルより低い間は流量弁の開口量を徐々に広げるべく開放信号を発する」(甲第二号証第1欄八行~一二行)ことにより、「ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、アキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御するようにした」(同号証第6欄二四行~二七行)ものであり、それによって「上記流量を負荷(注―低圧負荷)に追従させてその大まかな平均値に自動的に設定することができる。」(甲第二号証第6欄二八号~二九行)という効果を奏することができるのである。

されば、引用例記載のものにつき、高圧ユーザーに負荷変動がないという前提をとっても、引用例記載のものが、本件第一発明と同様の機能、作用を営むものといえないことは明らかである。よって、両者が「同様の機能、作用を営むものと判断される」としている原判決の前記認定判断は誤りであるといわなければならない。

三、引用例記載のものについて高圧負荷の変動を考慮しない場合における本件第一発明の容易想到性について

1.原判決は、

「甲第二号証を精査しても、アキュムレータ9(注―「9」とあるが、これは「12」の誤りと思われる。)の内圧が圧力限界内にあるときに本件第一発明がどのような制御を行うかについての記載は全く見当たらないことから判断すると、本件第一発明の技術的課題のうちでも、特に関心が払われたのは、もっぱらアキュムレータ9(注―前同)の内圧が圧力限界外にあるときにその圧力をどのように制御するかの点にあることを、見て取ることができる。」(三三頁下から三行~三四頁四行)

と認定している。

しかしながら、本件第一発明の技術的課題の重点は、アキュムレータの内圧が圧力限界外にあるときに、その圧力をどのように制御するかの点にあるのではない。本件第一発明は、「(アキュムレータの)内圧が予め設定された高圧レベルより高い間は流量弁の開口量を徐々に狭めるべく絞り信号を発し、且つ内圧が別に設定された低圧レベルより低い間は流量弁の開口量を徐々に広げるべく開放信号を発する」(甲第二号証第1欄八行~一二行)という制御を行って、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、アキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御するようにし、もってボイラからアキュムレータへの蒸気の流量を、自動的に負荷(低圧負荷)の平均値に近似した値に設定しうるようにしているのである(甲第二号証第3欄二三行~二六行及び第6欄二四行~二九行)。

これによって明らかなように、本件第一発明の技術的課題及び構成並びに作用効果は、ボイラからアキュムレータへの蒸気の流量をアキュムレータの内圧と関連させて流量弁により直接制御するようにし、それによって右流量を自動的に低圧負荷に追従させてその大まかな平均値に自動的に設定することができるようしたところにあるから、「本件第一発明の技術的課題のうちでも、特に関心が払われたのは、もっぱらアキュムレータの内圧が圧力限界外にあるときにその圧力をどのように制御するかの点にある」とする原判決の前記認定が誤りであることは明らかである。

2.原判決は、

「引用例には、アキュムレータ9の内圧が圧力限界内にあるときには、『(中略)』ことが記載されているのであるから、当然、逆に高圧ユーザーに負荷変動がない場合には、高圧系の余剰蒸気量(ボイラ出力が同一である限り、一定の量となる。)はアキュムレータ9に流れ、アキュムレータ9へ送られる蒸気量を制御する必要がなく、流量発信器12及び流量調節器13を設ける必要がないことが示唆されているということができる。

そうすると、高圧ユーザーの負荷変動を考慮しない場合には、流量発信器12及び流量調整(注―「節」の誤記と認める。)器13を取り除いて本件第一発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであるというべきであり、」(三四頁五行~三五頁四行)。

と認定している。

しかしながら、引用例記載のものにおいて、蒸気溜3からアキュムレータ9へ送られる蒸気量を制御するのは、アキュムレータ9内の圧力が限界圧力以内にある場合であって(甲第四号証一頁右欄一五行~二四行、三二行~三五行)、アキュムレータ9内の圧力が上限又は下限の限界圧力に達したときは、「アキュムレータ9の圧力が限界値内に戻るよう調節弁8を操作せしめる。」(同号証一頁右欄三一行~三二行)のみであって、蒸気溜3からアキュムレータ9へ送られる蒸気量の制御は行われない。

すなわち、引用例記載のものは、「蒸気アキュムレータ内の圧力が限界値内にある時は、ボイラ出力が定められた範囲内にあるようにボイラ側を優先して制御し、限界値に達した時には、この限界値に達した時のみ動作する圧力調節器によってアキュムレータを優先してアキュムレータ内の圧力が限界値内に戻るように制御するもの」(甲第四号証一頁右欄三六行~四二行)であるのである。

引用例記載のものにおいて、アキュムレータ9内の圧力が上限又は下限圧力に達したとき、アキュムレータ9の圧力が限界値内に戻るように制御する目的は、アキュムレータ9をして、引用例記載のものがアキュムレータ9に対して所期する機能、すなわち、ボイラ1(蒸気溜3)からアキュムレータ9に送られる蒸気量を制御する機能を回復させるためであるから、その場合、アキュムレータ9の圧力を限界値内に戻す制御が、できるだけ急速に行われなければならないのは当然である。

引用例記載のものにおいて、たとえ、高圧負荷に変動がない場合を想定するとしても、圧力限界外に達したアキュムレータ9の内圧を限界値内に戻すようにする制御が急速に行われることは、引用例記載のものの構造から当然にもたらされるところである。少なくとも引用例記載のものにおいて、アキュムレータ9の内圧が圧力限界外に達したとき、その状態を利用して、ボイラ1(蒸気溜3)からアキュムレータ9に送られる蒸気の流量を制御し、もって、その流量を低圧負荷の平均値に近似した値にしようとする技術的思想がみられないことは明白である。

これに対して、本件第一発明においては、アキュムレータの内圧が予め設定された高圧レベルより高いとき、また予め設定された低圧レベルより低いとき、その状態を利用して、アキュムレータの内圧が前者の状態にある間は流量弁の開口量を徐々に狭めるべく絞り信号を発し、アキュムレータの内圧が後者の状態にある間は流量弁の開口量を徐々に広げるべく開放信号を発するという、ボイラからアキュムレータに送られる蒸気の流量の制御を行うことにより、該流量を低圧負荷の変動に追従させてその大まかな平均値に自動的に設定することができるようにしているのである。

したがって、原判決のいう如く、引用例記載のものにおいて、流量発信器12及び流量調節器13を取り除いてみても、「本件第一発明のように構成すること」にはならないことが明白である。

原判決は、引用例記載のものにおけるアキュムレータ9の内圧が圧力限界外に達した場合に行われる制御が、アキュムレータ9の内圧を限界値内に戻すよう制御するものにすぎず、ボイラ1(蒸気溜3)からアキュムレータ9へ送られる流量を制御するものではないのに対して、本件第一発明におけるアキュムレータの内圧が予め設定された高圧レベルより高く、又は予め設定された低圧レベルより高い場合(原判決のいう「圧力限界外」に達した場合)に行われる制御が、その状態を利用して、アキュムレータの内圧が予め設定された高圧レベルより高い間は流量弁の開口量を徐々に狭め、アキュムレータの内圧が予め設定された低圧レベルより低い間は流量弁の開口量を徐々に広げることにより、ボイラからアキュムレータへ送られる蒸気の流量をアキュムレータの内圧と関連させて直接制御するものであるという両者の相違を看過し、そのために、引用例記載のものから流量発信器12及び流量調節器13を取り除けば本件第一発明のような構成になる、という誤った判断に陥ったものといわなければならない。

されば、「(引用例において)高圧ユーザーの負荷変動を考慮しない場合には、流量発信器12及び流量調節器13を取り除いて本件第一発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであるというべきであり、」とする原判決の認定判断の誤りは明白である。

3.右のようにみてくれば明らかなように、引用例記載のものにおいては、アキュムレータの内圧について設定される上限及び下限の圧力は、まさに「限界圧力」というべきものであって、アキュムレータの内圧が限界圧力外となった場合、急速にこれを限界値内に戻すよう制御するものとされているのに対し、本件第一発明においては、アキュムレータの内圧について設定される高圧レベル及び低圧レベルは、その機能からすれば「限界圧力」というべきものではなく、むしろ高圧レベルより高く又は低圧レベルより低い圧力を利用してボイラからアキュムレータへの蒸気流量の制御を行うものであるから、高圧レベルより高い圧力範囲及び低圧レベルより低い圧力範囲を「効用圧力範囲」とでも呼ぶべきものであることが知られるのである。

原判決は、右の点に関する理解を欠いたがために、本件第一発明について、アキュムレータの内圧が予め設定された高圧レベルより高いとき又は予め設定された低圧レベルより低いときの両者をあわせて「『圧力限界外』にあるとき」といい、この両者以外の場合を「『圧力限界内』にあるとき」というものとしている(二九頁六行~一〇行)のであるが、このような不適切な名付け方もまた、原判決が前記の如き誤った認定判断に陥る原因をなしていると思われる次第である。

四、結語

以上に述べたところから明らかなとおり、原判決は、本件第一発明と引用例記載のものとの比較にあたり、両者の技術的課題及び両者の機能及び作用を誤って認定し、かつ後者の一部の構造を取り除けば前者のように構成できると誤って判断したために、当業者が引用例から本件第一発明を容易に想到しうるとの誤った結論に達し、本件審決の取消を求める上告人の請求を棄却したものである。

よって、原判決には民事訴訟法第三九五条第一項第六号所定の理由不備ないし理由齟齬の違法があるから、破毀を免れない。

以上

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